- 公開日
- 最終更新日
遺品整理をすると相続放棄できない?
- 執筆者弁護士 山本哲也
親や配偶者など身近な人が亡くなったとき、避けて通れないのが「遺品整理」です。
しかし、「遺品を整理したら相続放棄できない」といった話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
実は、相続放棄の前後の行動を誤ると、「単純承認」とみなされて、相続放棄が認められなくなるリスクがあります。
今回は、相続放棄と遺品整理の関係について、注意すべき点を詳しく解説します。
目次
相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)の財産や借金を一切引き継がないという法的手続きです。
民法では、相続が発生してから原則として3か月以内に、家庭裁判所へ申述することにより、相続放棄が認められるとされています。
相続放棄が認められれば、初めから相続人ではなかったことになり、相続財産だけでなく、借金や連帯保証債務などの負債についても責任を負わなくてすむようになります。
相続放棄の前後でやってはいけないこと
相続放棄を検討しているにもかかわらず、「相続人として相続財産を処分した」とみなされるような行為をすると、「単純承認」したと判断されてしまうおそれがあります。単純承認とは、相続人が財産・負債を無条件に受け継ぐことを意味します。
単純承認とみなされる行為の具体例は以下のとおりです。
- 現金や預貯金を引き出して使う
- 家財道具や車などを売却・処分する
- 不動産を解体・賃貸・譲渡する
- 借金の返済をする
こうした行為を行ってしまうと、後から相続放棄をしても、すでに相続したとみなされ、家庭裁判所に認めてもらえない可能性が高くなります。
相続放棄できなくなる?整理すべきではない遺品とは
遺品整理のなかでも、特に注意が必要なのが、経済的価値がある遺品の取り扱いです。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 現金、通帳、宝石、ブランド品
- 株券、保険証券、不動産の権利証
- 車両、有価証券類
- 家電製品、貴金属、骨董品など
こうした遺品を整理し、勝手に処分したり持ち帰ったりすると、相続財産を処分したと判断され、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
一方で、日用品や衣類、写真、仏壇などの「生活の一部だった物品」については、相続財産としての価値が乏しいとされ、ある程度整理しても問題とならないケースもあります。
ただし、判断が難しい場合は自己判断せず、専門家の意見を仰ぐのが安全です。
遺産から葬儀費用は出せる?
被相続人の死亡後、葬儀を行う際に「被相続人の預貯金から費用を支払ってしまった」というケースもよく見られます。しかし、葬儀費用を被相続人の財産から支出した場合でも、それだけで直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。
実務上、葬儀費用については、被相続人の社会的義務に基づくものとして、特別な事情がない限りは、相続放棄との関係で不利に扱われないのが一般的です。
ただし、高額な香典返しや法外な祭壇の購入など、常識を超える支出を行うと、相続財産を処分したとみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあるので、注意が必要です。
相続放棄をしたら遺品はどうするのか?
相続放棄をした場合、その人は初めから相続人ではなかったことになり、遺品の整理・処分を行う権利も責任も一切なくなります。
そのため、遺品を整理する必要がある場合は、次の対応をする必要があります。
まず、自分や自分と同順位の相続人が全員相続放棄をした場合には、次順位の相続人に対応してもらうこととなります。
一方、相続人全員が相続放棄をした場合には、相続人がいないこととなるので、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。そして、選任された相続財産管理人に遺品整理をしてもらいます。
相続放棄をしたにもかかわらず、勝手に自分で遺品を処分してしまうと、相続放棄の効力が否定されるおそれがあるため、注意が必要です。
相続が発生したらお早めに弁護士にご相談ください
相続放棄を検討している場合は、遺品に手を付ける前に、まずは弁護士にご相談されることを強くおすすめします。
遺品整理の範囲によって、単純承認したとみなされるかどうかの判断は非常に難しく、場合によっては取り返しのつかない結果になりかねません。
また、相続放棄の手続きには期限がありますので、迷っているうちに3か月が経過してしまわないよう、早めに行動することが大切です。
相続放棄と遺品整理は密接に関係しており、誤った手順を踏むことで思わぬトラブルに発展することがあります。
「財産は不要だけど、遺品は整理したい」という場合でも、法律上は思わぬリスクを伴うため、慎重な対応が求められます。
少しでも不安がある方は、相続問題に詳しい弁護士に相談し、正しい手続きを踏んでトラブルを未然に防ぎましょう。
弁護士法人山本総合法律事務所は、相続放棄の問題に精通しており、遺品整理の問題にも対応することができます。遺品整理についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。