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【弁護士が解説!】相続の遺留分とは?
- 執筆者弁護士 山本哲也
不公平な遺言や生前贈与が行われて「遺留分」を侵害されてしまったら、相手へ「遺留分侵害額請求」できます。
遺留分侵害額請求をすると、侵害された遺留分を「お金」の形で取り戻せます。
この記事では遺留分に関する以下のような疑問に、弁護士がお答えします。
- 遺留分とはどういった権利なのか
- 誰に認められるのか
- どういった場合に遺留分が発生するのか
- どのくらいの金額を請求できるのか
- 遺留分侵害額請求の具体的な手順
群馬の山本総合法律事務所では相続案件に非常に力を入れていますので、遺留分についてお悩みのある方はお気軽にご相談ください。
目次
1.遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障される「最低限度の遺産取得割合」です。
夫や妻、子どもなどの親しい相続人は、相続が発生したら「ある程度の遺産を取得できる」と期待しているものです。民法も、親しい相続人へ多くの遺産を取得させるのを原則としています。
ところが不公平な遺言や贈与が行われると、配偶者や子どもなどであっても遺産をほとんど受け取れなくなるケースもあります。
そのような状況にそなえて、一定範囲の相続人には最低限度の遺産取得割合である「遺留分」が認められるのです。
遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求が可能
遺言や贈与によって遺留分を侵害されてしまったら、権利者は相手方(受遺者や受贈者)へ「遺留分侵害額請求」を行ってお金を取り戻せます。
ただし不動産や株式などの「遺産そのもの」を請求することはできません。
遺留分侵害額請求権は、あくまで「金銭によって遺留分を清算する権利」と理解しましょう。
2.遺留分が認められる相続人と遺留分の割合
相続人となる人全員に遺留分が認められる訳ではなく、一定の範囲と決まっています。
また、遺留分の割合も相続人によって違いがあります。
遺留分権利者となる相続人の範囲
遺留分は、すべての相続人に認められるわけではありません。
遺留分権利者となるのは以下の相続人です。
- 配偶者
- 子どもや孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
兄弟姉妹とその代襲相続人である甥姪には、遺留分が認められません。
遺留分の割合
誰が遺留分権利者になるかにより、遺留分の割合が異なります。
親や祖父母などの直系尊属のみが遺留分権利者となる場合、遺留分全体の割合は遺産(生前贈与分含む)の「3分の1」です。
それ以外の場合(相続人に配偶者や子どもなどが含まれる場合)には、遺留分全体の割合は遺産(生前贈与分含む)の「2分の1」となります。
遺留分権利者が複数いる場合、上記の割合をそれぞれの法定相続分にて按分します。
【遺留分の割合早見表】
相続人の構成 | 配偶者 | 子ども | 親 |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | ||
子どものみ | 1/2 | ||
2人の子ども | 1/4ずつ | ||
配偶者と1人の子ども | 1/4 | 1/4 | |
配偶者と2人の子ども | 1/4 | 1/8ずつ | |
片親 | 1/3 | ||
両親 | 1/6ずつ | ||
配偶者と片親 | 1/3 | 1/6 | |
配偶者と両親 | 1/3 | 1/12ずつ | |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 |
3.遺留分の対象
遺留分の対象となる財産の範囲についてご説明します。
被相続人(亡くなった人)が死亡した時点で残っていた財産だけでなく、決められた範囲内での生前贈与等も対象となります。
以下で詳しく解説します。
①遺言による遺贈
遺言によって「遺贈」が行われて遺留分を侵害されたら、権利者は遺留分侵害額請求ができます。
②死因贈与
死因贈与とは、死亡を原因として行われる贈与です。遺言と似た取り扱いを受け、遺留分の対象にもなります。
③相続開始前1年以内に行われた生前贈与
生前贈与については、基本的に相続開始前1年以内に行われた場合に遺留分侵害額請求の対象になります。
④法定相続人への相続開始前10年以内の生前贈与
法定相続人へ生前贈与された場合、相続開始前10年以内のものであれば遺留分侵害額請求の対象になります。
ただし「特別受益」となる場合に限られます。
特別受益となるのは、婚姻や養子縁組のため、あるは生計の資本として行われた生前贈与です。
⑤「遺留分を侵害する」と認識しながら行われた生前贈与
贈与者と受贈者がお互いに「遺留分を侵害する」と認識しながら生前贈与した場合、期間の制限なく遺留分侵害額請求の対象になります。
4.遺留分侵害額の計算方法
具体的な遺留分侵害額の計算手順をみてみましょう。
STEP1 遺産総額を評価する
まずは遺産総額を明らかにしなければなりません。
現金や預金などであれば簡単に評価できますが、不動産や株式などの変動する財産については評価額を明らかにする必要があります。
遺留分の計算時には、基本的に相続開始時の時価を基準とします。
たとえば不動産の時価について、相続開始時に2,000万円、遺留分侵害額請求時に2,100万円だったとすると、評価額は2,000万円となります。
STEP2 生前贈与分を加算する
上記で明らかになった遺産評価額へ、遺留分計算の基礎となる生前贈与分を加算します。
生前贈与についても、不動産などの価値が動く財産は評価しなければなりません。
STEP3 負債を控除する
遺産に借金などの負債が含まれている場合には、その金額を控除します。
STEP4 遺留分割合を掛け算する
このようにして遺留分侵害額の基礎となる金額を算定できたら、遺留分請求権者の遺留分割合を掛け算します。
すると、最終的な遺留分侵害額を算定できます。
遺留分計算の具体例
遺産額が5,000万円、負債額が500万円、遺言で「長男に対し、すべての遺産を遺す」と指定されていたケース。相続人は長男、次男、長女の3人。
この場合、長男が次男と長女の遺留分を侵害しているので、次男と長女は長男に対し、遺留分侵害額請求できます。
遺産額は5,000万円ですが、負債が500万円あるので差し引きを行い、遺留分の対象となる金額は4,500万円となります。
次男と長女の遺留分割合はそれぞれ6分の1ずつなので、それぞれが請求できる遺留分侵害額は以下のとおりの金額です。
4500万円 × 6分の1 = 750万円
次男と長女は長男に対し、それぞれ750万円の遺留分侵害額の支払いを請求できます。
5.遺留分侵害額請求権の時効と期間制限
遺留分侵害額請求権には「時効」があるので注意が必要です。
時効が成立してしまうと、権利があっても請求できなくなるので、請求したいなら早めに手続きを行いましょう。
遺留分侵害額請求権の期間制限は以下のとおりです。
- 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年間(時効)
- 相続開始から10年間(除斥期間)
上記のうち、特に重要なのは時効の方です。
遺留分の請求は1年以内に
「相続開始(被相続人が死亡したこと)」と「遺留分を侵害する遺言や贈与」を知ったら、1年以内に請求しないと権利が消滅します。
迷っている間に時効が成立してしまうケースも多いので、できるだけ早く請求書を送るようおすすめします。
なお1年以内に請求をした場合でも、その後5年以内に回収しなければ別途債権の時効が成立します。遺留分侵害額請求を行う際には、常に期間制限を意識すべきといえるでしょう。
6.遺留分侵害額請求の手順
遺留分侵害額請求をしたいときには、以下の手順で進めるのが一般的です。
STEP1 請求する
まずは遺留分の侵害者に対し、遺留分侵害額請求を行いましょう。
請求方法については、特に法律上のルールはありません。口頭の請求でも有効です。
ただ遺留分侵害額請求権には時効があるので、「確実に時効成立前に請求した証拠」を残すべきです。
そこで一般的には「内容証明郵便」を使って請求書を送ります。内容証明郵便を使うと確実に期間内に通知したことを後になっても証明できるので、遺留分侵害額請求権が失われる心配がありません。
STEP2 交渉する
相手に通知を送ったら、次は遺留分侵害額の金額や支払い方法について取り決めなければなりません。
交渉してお互いに合意できるポイントを見つけましょう。
相手の資力によっては分割払いを提案される可能性もありますし、減額請求されるケースも少なくありません。
交渉では、状況に応じた臨機応変な対応を要求されます。
弁護士に交渉を任せると適正な条件で遺留分侵害額を取り戻しやすくなりますので、ご相談ください。
STEP3 合意書を作成して支払いを受ける
相手と合意ができたら遺留分侵害額の支払いに関する合意書を作成しましょう。
後は相手が約束とおり入金するかをチェックするだけです。
入金がなかったら督促しましょう。
STEP4 調停を申し立てる
相手と話し合っても合意できなければ、家庭裁判所で遺留分侵害額請求調停を申し立てましょう。
調停では調停委員が間に入って話をまとめてくれます。
ただし強制はできないので、お互いにどうしても合意できなければ調停は不成立になって終了します。
STEP5 訴訟を提起する
調停でも合意できない場合、最終的に地方裁判所で遺留分侵害額請求訴訟を起こさねばなりません。
訴訟で遺留分侵害の事実を立証できれば、裁判所が適正な遺留分侵害額を計算し、相手へ支払い命令を出してくれます。
7.遺留分侵害額請求を弁護士へ依頼するメリット
遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
- 自分にどのくらいの遺留分が認められるのかがわかる
- 遺留分侵害額を正確に計算できる
- 不注意で時効が成立してしまうおそれがない
- 交渉を有利に進めて好条件で合意しやすい
- 相手が支払いを滞納しない対策をとれる(公正証書の作成など)
- すべてを任せられるので、手間がかからない
- 自分で相手と直接関わらなくて良いので、ストレスがかからない
遺留分を請求したい、遺留分を請求された時はご相談を
群馬の山本総合法律事務所では、2007年の開業以来、多くの遺留分にまつわる相続トラブルを解決してきました。
遺留分を請求したい方だけではなく、請求された方からのご相談も承ります。
時効が成立してしまうと遺留分侵害額請求できなくなってしまいますので、不公平な遺言や贈与に納得できない方は、お早めにご相談ください。