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遺産相続での預貯金の分け方
- 執筆者弁護士 山本哲也
目次
はじめに|「預貯金の分け方がわからない」という方へ
「遺産相続で預貯金をどう分けたらいいかわからない」とお悩みの方は多くいらっしゃいます。
相続では、遺産の中に預貯金が含まれている場合が多く、預貯金は不動産と比べて分けやすいと思われがちですが、遺産分割協議が難航したり、複数の口座があって具体的な分け方に迷ったりするケースも少なくありません。
また、遺産に預貯金があるときに決してしてはいけないのが、口座が凍結される前に勝手に預金を引き出すことです。
トラブルにつながりかねません。
早急に必要なお金は、仮払い制度を利用して引き出しましょう。
本記事では、遺産相続における預貯金の分け方について、決め方や流れ、注意点などを解説しています。
遺産の中に預貯金が含まれている相続において相続人となっている方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
預貯金の取り分(相続分)の決め方
ステップ①:遺産分割協議で取り分を決定する
被相続人(亡くなった方)が遺言を残していなかった場合、預貯金を含む遺産は相続人全員による「遺産分割協議」で取り分を決めることになります。
遺産分割協議を成立させるには相続人全員の合意が必要であり、一部の相続人が勝手に決めることはできません。
ステップ②:法定相続分を目安に分ける
取り分を決める際には、法定相続分が参考になります。
法律上定められている割合は以下の通りです。
法定相続人の構成 | 法定相続分 |
配偶者のみ | 配偶者:1 |
配偶者+子 | 配偶者:1/2、子:1/2(※) |
配偶者+両親 | 配偶者:2/3、両親:1/3(※) |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4(※) |
子のみ | 子:1(※) |
両親のみ | 両親:1(※) |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:1(※) |
※複数人いるときは人数に応じて均等に割る
【参考】相続人の順位とは
預貯金の分け方の具体例
たとえば、相続人が配偶者と子3人であれば、配偶者は1/2、子は1/2を3人で割って1/6ずつとなります。
上記はあくまで基本的な割合であり、合意できるのであれば異なる割合としても構いません。決めた割合に従って預貯金を分けます。
実際に分ける際には、以下の方法が考えられます。
パターン①:口座をすべて解約し、決めた割合に従って分ける
この方法では、割合に沿って金融機関から各相続人の口座に直接入金してもらうことが可能です。金融機関が個別の入金に対応していない場合は、代表者の口座に入金したうえで、代表者が分配する形になります。
パターン②:口座ごとに引き継ぐ相続人を決め、名義を変更する
この方法では、口座ごとの残高に差がある場合は不公平になりやすいため、金額に応じた調整が必要です。
他の財産とのバランスを考慮した調整(代償分割)
預貯金だけを考えると以上の通りですが、実際の遺産分割協議は不動産や株式など他の財産も含めて行われます。
物理的に分けられない財産があるときなどは、多額の財産を受け取った人が代償金を支払って調整するケースも多いです。
たとえば、以下のケースを見てみましょう。
- 相続人は子2人(長男・次男)
- 相続財産は不動産(5000万円相当)と預貯金3000万円
- 長男が不動産の取得を希望
このケースでは、法定相続分通りであれば4000万円ずつとなります。
長男が不動産を取得すると取り分が多くなるため、超過分の1000万円を別途用意し、次男に支払う方法が考えられます。
【参考】遺産相続における代償金とは?代償分割のメリット・デメリット
預貯金を勝手に引き出すのはNG
なお、かつて預貯金は遺産分割の対象外とされており、自身の法定相続分の範囲内であれば相続人は単独での払い戻しも可能でした。
しかし、2016年(平成28年)に示された最高裁判所の判断により、現在は遺産分割の対象とされています。
仮払い制度の対象となっている範囲を除いて、独断では引き出せなくなっているので注意しましょう。
預貯金を遺産相続する手続きの流れ
預貯金を相続する際のおおまかな流れは以下の通りです。
①相続人の確定
前提として、法定相続人が誰かを確定させておく必要があります。
亡くなった人の生まれてから死亡までの戸籍を取り寄せて確認しましょう。
法定相続人は以下のルールで決まります。
配偶者は常に相続人になる
配偶者(夫または妻)は、他に誰がいても常に相続人になります。
配偶者以外の相続人には順位がある
配偶者以外の相続人は、以下の順位の高い人から順に相続人になります。
順位 | 相続人の種類 | 備考 |
第1順位 | 子(または孫) | 子が亡くなっていれば孫が代わりに相続(代襲相続)します。 |
第2順位 | 両親(直系尊属) | 子がいない場合に限り相続人になります。祖父母が代わることもあります。 |
第3順位 | 兄弟姉妹(または甥姪) | 子・両親がいないときに相続人になります。兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪が代襲相続します。 |
調査の結果、隠し子など、思いもよらぬ相続人が判明するケースもあります。
必ず最初に確認しましょう。
【参考】相続人調査や戸籍の収集方法
②相続財産の調査
分割の対象となる財産の調査も進めてください。
「そもそも何が遺産かわからない」というケースは多いです。
預貯金の存在は、通帳やキャッシュカード、郵便物などからあたりをつけます。口座がある金融機関が判明したら、残高証明書を取得しておきましょう。
預貯金以外にも、不動産や株式など、すべての財産を調査する必要があります。
【参考】相続財産調査の方法
③遺産分割協議
相続人と財産が判明したら、遺産分割協議を行いましょう。
遺言書がない限り、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
協議を通じて、預貯金を含めた遺産の取り分や具体的な分け方を決定します。法定相続分が目安にはなりますが、話し合いの結果、別の割合としても構いません。
話し合いがまとまったら、内容を遺産分割協議書にまとめ、全員分の署名押印をしてください。
【参考】【書式つき】遺産分割協議書の書き方をパターンごとに弁護士が解説!
④預貯金を分ける
最後に、遺産分割協議書にしたがって、実際に遺産を分けます。
前述の通り、預貯金であれば、解約して分配する、あるいは口座の名義人を特定の相続人に変更したうえで必要に応じて調整するといった方法があります。
金融機関に必要書類を提出して進めましょう。
【参考】預貯金の名義変更と払い戻し
預貯金の相続で注意すべきポイント
預貯金の遺産分割においては、以下の点に注意してください。
口座が凍結される
金融機関が名義人の死亡を把握すると、口座は凍結されます。
相続財産の移動によるトラブルに巻き込まれるのを金融機関が避けるためです。
口座が凍結されるのは、通常は相続人が申し出たタイミングになります。
凍結されると入出金ができなくなる点を頭に入れておきましょう。
凍結前に勝手に引き出さない
口座が凍結されるといっても、金融機関が死亡の事実を自動的に把握するわけではありません。
そのため、申し出がなされていない段階では、通帳・キャッシュカードと暗証番号を把握していれば引き出せる状態にあります。
とはいえ、死後に勝手に預金を引き出さないでください。
「引き出して自分のために使った」などと疑いをかけられ、トラブルになるおそれがあります。無用なトラブルを避けるために、早めに凍結し、誰も入出金ができない状態にしておくべきです。
他にも、勝手に引き出して使用すると、単純承認をしたとみなされて相続放棄ができなくなるリスクがあります。故人名義の預金には手をつけないようにしてください。
【関連】預金使い込みの解決方法
【関連】限定承認と単純承認
すぐにお金が必要であれば仮払い制度を利用する
預貯金仮払い制度とは?
口座凍結により引き出しができないと、葬儀費用や普段の生活費に困ってしまう場合もあるでしょう。すぐにお金が必要なときは、遺産分割前の預貯金仮払い制度を利用する方法があります。
預貯金仮払い制度は、各相続人が単独で一定額の預金を引き出せる制度です。
上限額は、1つの金融機関につき、以下の金額のうち低い方と定められています。
- 預貯金残高×1/3×請求する相続人の法定相続分
- 150万円
具体例で見る仮払い可能額
たとえば次のケースで考えます。
- 相続人の法定相続分:1/2
- 預金残高:A銀行 1200万円、B銀行 300万円
計算すると、以下の通りです。
→ A銀行:1200×1/3×1/2=200万円 → 上限150万円
→ B銀行:300×1/3×1/2=50万円 → 上限50万円
利用方法と注意点
預貯金の仮払い制度を利用する場合には、次の点に注意しましょう。
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金融機関に申し出て、必要書類(戸籍・相続関係説明図など)を提出
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勝手な引き出しではなく、正式な手続きで行う
早急にお金が必要な場合には、凍結前に勝手に引き出すのではなく、凍結してから仮払い制度を利用するようにしてください。
遺産相続トラブルは弁護士にご相談ください
ここまで、預貯金の相続について解説してきました。
相続財産に預貯金が含まれている場合、分け方や引き出し方法を誤ると、深刻なトラブルに発展することがあります。
当事務所では、相続に関するご相談・交渉・手続きを幅広くサポートしております。
- 預貯金の分け方に関するトラブル
- 他の相続人による無断引き出し
- 遺産分割協議がまとまらない
などでお悩みの方は、預貯金の遺産相続トラブルについても、豊富な解決実績がある弁護士法人山本総合法律事務所までお気軽にご相談ください。
【関連】山本総合法律事務所の解決実績