農地の相続問題にお困りの方へ 

更新日:2023/06/14
田園風景

農地を相続すると、相続人の中に農業を行う人がおらず対応に困ってしまうケースが多々あります。

群馬県でも農地の相続が発生するケースは少なくありません。

「誰も農地を引き継ぎたくない」場合、どのように対処すれば良いのでしょうか?

この記事では農地の相続問題でよくあるトラブルや対処方法について、弁護士が解説します。

農地の相続問題でお困りの方はぜひ参考にしてみてください。

1.農地の相続問題でよくあるトラブル

悩む男女

まずは農地の相続問題でよくあるのはどういった問題なのか、みてみましょう。

1.相続人のうち、誰も農業を引き継がない

相続人のうち、誰も農業を引き継がないケースがよくあります。たとえば親が田舎で農業をしていても、子どもたちは都会へ出て会社員などをしているケースが多いでしょう。

知り合いなどに農地の耕作を希望する人がいれば農地を貸し付ける方法もありますが、耕作をする人も減っています。農地を誰も耕さなければ荒れ地になってしまうでしょう。近隣住人から苦情が来る可能性もあります。

相続人のうち誰も農業を引き継がない場合、遺産分割協議の際に相続人間で農地を押し付け合うケースもみられます。

2.遺産分割方法がまとまらない

農地が遺されても農業を相続人が引き継がない場合、遺産分割協議で農地の相続人を決めるのが難しくなる可能性があります。

また農地は簡単には売れません。農地を購入できるのは農業を行う人だけですし、農業委員会の許可も必要となります。そこで換価分割を行って農地を相続人で現金で分けるといった手法もとりにくくなる傾向がみられます。

  • 換価分割…土地などの遺産を売却して相続人間で現金で分ける方法

特に相続財産の多くが農地の場合、預金などで調整できないので遺産分割協議が難航しやすくなるといえるでしょう。

3.農地の評価額が高額になる

農地の評価額が意外と高額になるケースもあります。

たとえば農地が市街地にある場合、相続税評価額が「宅地」に準じた価額になるケースも少なくありません。その場合、相続人が予想しているよりも税額が高額になってしまい、支払いによる負担が大きくなる可能性があります。

4.売却や転用ができない

農地を売却したり転用しようとしたりしても、簡単にできないケースがよくあります。

そもそも農地は農業を行う人にしか売れません。また転用も難しい地域があります。

相続人が「農地は売って分ければ良い」「転用して宅地にすれば良い」などと簡単に考えていると、予想外の事態に陥ってしまう可能性があります。

2.農地の相続におけるポイント

ポイント

農地の相続では、以下のような点が重要ポイントとなります。

1.農業を継続できるか検討する

まずは相続人自身が農業を継続できるか検討しましょう。

相続人のうち誰かが農業を継続できるなら、その相続人が農地を引き継ぐのが妥当です。

一方誰も農業を継続しないなら、売却や転用、放棄などを検討しなければなりません。

2.転用できるかどうかを調査する

次に農地を転用できるかどうかを調査しましょう。

農地の転用とは、もともと農地だった地目を宅地などの別の地目へ変更することです。

宅地にすれば、家やマンションを建築するなどして土地活用も可能となります。

転用が比較的容易な地域と難しい地域があるので、相続した農地がどちらのエリアに含まれるかを調査しましょう。

3.売却を検討する

農地を売却できるかどうかについても重要ポイントとなります。

農地を買い受ける人が見つかって売却できそうなら、農地相続による問題はさほど大きくならないでしょう。

一方、相続人のうち誰も農地の相続を希望せず転用もできず売却もできない場合、相続放棄を検討せざるを得なくなる可能性もあります。

【参考】相続放棄とは

3.農地を相続する際に必要な手続き

案内する女性

農地を相続する際には、以下のような手続きをしなければなりません。

1.税務署への申告

農地を相続したとき、遺産全体の評価額が基礎控除を超えていれば相続税が発生します。

  • 相続税の基礎控除…3000万円+法定相続人×600万円

農業をしている場合、多数の農地を所有しており遺産全体の価額が高額になるケースも少なくありません。相続税が発生する場合、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」に税務署へ相続税の申告書の提出と相続税の納付を行う必要があります。

遅れないように、早めに対応しましょう。

2.農業を引き継ぐ場合の相続税の猶予特例

相続人が農業を引き継ぐ場合、農地部分の相続税が猶予される特例を適用できるケースがあります。この特例を農地の納税猶予の特例といいます。

農地の納税猶予の特例が適用されると、一定の条件を満たした場合に農地にかかる部分の相続税の支払いが猶予されます。その後、相続人が死亡するまで農業を継続した場合など一定条件を満たすと、相続税が免除されます。

農地の納税猶予特例が適用される条件

農地の納税猶予特例が適用されるには、以下の条件を満たさねばなりません。

①被相続人の条件

被相続人は、以下のいずれかの条件を満たさねばなりません。

  • 死亡日まで農業を営んでいた
  • 生前に農地を一括贈与した
  • 死亡日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人、または、農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、農業を営むのが困難な状況で営農困難時貸付を行っていて、税務署長に届出をした
  • 死亡日まで特定貸付け等を行っていた

②相続人の条件

相続人は、以下のいずれかの条件を満たさねばなりません。

  • 相続税の申告期限までに農地を引き継ぎ、今後も引き続き農業を継続する
  • 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金または経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした(※ただし贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行う場合に限る)
  • 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした(※ただし贈与者の死亡後も引き続いて賃借権等の設定による貸付けを行う場合に限る)
  • 相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付け等を行っている)

農地の条件

特例の対象となる農地は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地または採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予または納期限の延長の特例の適用を受けていたもの
  • 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの

農地の納税猶予の手続き

農地の納税猶予を受けるには、どのような手続きが必要か、みてみましょう。

まずは相続税の申告書に必要事項を記入し、特例の適用条件を満たしている事実を証明できる資料を添付して税務署へ申告期限内に提出しなければなりません。

猶予される税額と利子税に応じて担保の提供も行う必要があります。

また納税猶予を受けた後も継続して猶予を受けるには、3年目ごとに「継続届出書」を提出しなければなりません。

3.法務局での相続登記手続き

法務局

農地を相続した場合、農地の所在地を管轄する法務局で相続登記をしなければなりません。

相続登記とは、不動産の所有者の名義変更のことです。

農地の相続登記手続きを行う場合、「固定資産税評価額×0.4%」の登録免許税を払う必要があります。

また相続登記の申請の際には被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、相続人全員分の戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑登録証明書なども必要となります。

被相続人の遺言書で相続登記する場合には遺産分割協議書は不要ですが、「遺言書」を添付しなければなりません。

2024年4月からは相続登記に3年の期限が設けられることが決まっています。農地を相続したら今のうちから早めに相続登記を行いましょう。

農業委員会の許可は不要

農地を売買などで取得する場合の名義変更登記には、農業委員会の許可が必要とされます。農業委員会は、農地に関する各種の事務を担当するために自治体ごとに設置されている法律上の組織です。農地は国民にとって重要な食料の安定供給に関わる重要なものなので、無秩序な開発や宅地への転用などを抑制するために農業委員会がもうけられています。

相続によって農地を取得する場合、農業委員会による許可は不要です。法定相続人が農地を相続する場合、農業委員会へ許可申請する必要はありません。

ただし法定相続人以外の人が農地を相続する場合、農業委員会の許可が必要となります。

農業委員会への届出

相続を原因として農地の所有者が変わった場合、農業委員会の許可は不要ですが届出が必要です。

届出をする場合、所定の届出書を作成して提出する必要があります。他に法務局で相続登記した際の登記簿謄本など、相続した事実を確認できる書面も用意しましょう。届出に手数料はかかりません。

また届出には期間制限があり「被相続人が死亡したことを知った時点から10か月以内」に行わねばなりません。届出を怠った場合や虚偽の届出を行った場合「10万円以下の過料」という制裁を加えられる可能性があるので早めに対応しましょう。

4.農業を続ける人が相続人にいない場合の対処方法

ビニールハウス

相続人の中に農業を続ける人がいない場合、以下のように対応しましょう。

1.相続土地国庫帰属制度を利用する

1つは相続土地国庫帰属制度を利用する方法です。

これは相続人が土地を相続したくないときに、国に土地を返せる制度です。農地でも条件を満たせば相続土地国庫帰属制度を適用できる可能性があります。

相続土地国庫帰属制度を使えれば、誰も農地を相続したくない場合でもスムーズに遺産相続手続きを進めやすくなるでしょう。

ただしすべての土地に相続土地国庫帰属制度を適用できるわけではありません。担保金の提供も必要となります。

相続土地国家帰属制度を使えるかどうかわからない場合、お気軽に弁護士までご相談ください。

2.農地を売却する

相続人のうち誰も農地の相続を希望しない場合、農地を売却する方法も検討できます。

農地を売却してしまえば現金で分けることもできますし、その後の管理も不要となって相続人の負担が減るでしょう。

ただし農地を買い取れるのは農業を行う人だけです。農業委員会の許可も必要となり、一般の宅地のように簡単には売れません。

農地を買い受ける人を見つけられる場合には、農地売却を検討すると良いでしょう。地域の農業関連機関が買受人を紹介してくれるケースもあるので、そういった団体のある地域では相談してみてください。

3.耕作を委託する

農地の耕作を第三者に委託する方法もあります。農業を行う人に農地を貸しつけて農業を行ってもらうのです。耕作を委託すれば農地の荒れ地化を防止できますし、賃料も入ってきます。

最近では農地の利用券取得者の範囲が拡大され、農地の維持管理を一括で引き受ける業者なども現れているので、相談してみると良いでしょう。

4.農地を転用する

農地を転用するのも1つの方法です。たとえば農地を宅地に転用すると、マンションや一軒家、アパートなどを建築して収益を得ることもできますし、売却も容易になります。

ただし転用はどこのエリアでもできるわけではありません。

市街化区域なら農地の転用が比較的簡単ですが、市街化調整区域では原則として転用が難しくなっています。転用の手続き方法も市街化区域と市街化調整区域で異なります。

転用を検討する際には、対象の農地がどういったエリアにあるか調査して、転用できるなら転用の手続きをとりましょう。

5.相続放棄する

相続土地国庫帰属制度を適用できない場合などには、相続放棄も1つの対処方法となります。相続放棄とは、相続人である地位を放棄し、資産も負債も相続しないことです。

相続放棄すると、農地を含めたすべての遺産を相続しません。

ただし相続放棄すると、農地だけではなく農地以外の資産も相続できなくなるデメリットがあります。農地以外にも多くの資産がある場合に相続放棄すると経済的に損をしてしまうでしょう。

農地以外に目立った資産がない場合や、他の資産も相続できなくなってもかまわない場合などには相続放棄を検討しても良いと考えます。

5.農地の相続に関する解決事例

農地の相続手続きのアドバイスや支援を行った事例

弁護士は農地の相続についてのアドバイスやサポートができます。

農地を相続すると、何から手を付けてよいのかわからない方も多いでしょう。そんなとき、検討すべき事項ややるべきことの手順などを弁護士がアドバイスします。

弁護士に相談していれば、届出などの期限を過ぎてしまうリスクも大きく低減できるメリットがあります。手間や時間もかかりません。

農地の相続でお困りの際には弁護士までご相談ください。

6.農地の相続は山本総合法律事務所にご相談ください

武多和弁護士

群馬県でも農地が多く、農地の相続で悩まれる相続人の方が少なくありません。

山本総合法律事務所は群馬県の地元に密着した法律事務所として、今まで数多くの相続の事例に関与してまいりました。その中には農地の相続も相当数、含まれています。

農地の相続には専門知識が必要です。相続税申告など期限のある手続きも存在するので、できるだけ早く弁護士に依頼されるようおすすめします。

当事務所では「幸せな相続」「将来につながる相続」を目指し、相続人同士がもめずに親族関係を良好に維持したまま相続手続きを進められるよう支援しております。

農地やその他の遺産を相続した場合のお悩みには、弁護士が親身になって対応させていただきます。遺産相続でお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

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