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死亡退職金は遺産分割の対象になるのか
- 執筆者弁護士 山本哲也

家族が亡くなったあと、会社から「死亡退職金」が支給されるケースがあります。遺族にとっては大きな経済的支えとなる一方で、「これは相続財産なのか?」「他の相続人と分ける必要があるのか?」といった疑問が生じやすい部分でもあります。
死亡退職金は、法的に特殊な位置づけを持ち、相続の場面でトラブルに発展することも少なくありませんので、正しい知識を身につけておくことが大切です。
本記事では、死亡退職金の基本的な性質や死亡保険金との違い、遺産分割の対象となる場合・ならない場合、実務上よくあるトラブル事例などについて解説します。
相続で争いを避けるためにも、ぜひ参考にしてください。
目次
死亡退職金について

まずは死亡退職金の基本的な位置づけを確認しましょう。
似ている制度に死亡保険金がありますが、法的な性質は異なります。
違いを理解することが、その後の相続トラブルの防止につながります。
死亡退職金とは
死亡退職金とは、従業員が在職中に死亡した場合に、会社から遺族に対して支給される金銭のことを指します。
一般的には会社の就業規則や退職金規程に基づいて支給されるものであり、性格としては「遺族の生活保障」と「従業員の功労に対する慰労」の両面を持っています。
企業によっては、定年退職と同様の水準で支給される場合もあれば、死亡時に特別加算がされる場合もあります。
また、支給対象者(受取人)は、就業規則や退職金規程で「配偶者」「子」「その他の遺族」などが指定されていることが多いです。
死亡退職金と死亡保険金の違い
死亡退職金と死亡保険金は、どちらも遺族が受け取る金銭ですが、その根拠や法的性質が異なります。
- 死亡退職金…会社が規程に基づいて支給する金銭。支給額や受取人は会社側の規程で定められる。
- 死亡保険金…生命保険契約に基づき、保険会社から契約上の受取人に支払われる。受取人は保険契約時に指定される。
つまり、死亡退職金は「雇用関係に基づく給付金」、死亡保険金は「保険契約に基づく給付金」と整理できます。
両者ともに相続財産に含まれるかどうかは、受取人の定め方や法的性質に左右されます。
死亡退職金は遺産分割の対象になるのか

実際に相続の場面で問題となるのが「死亡退職金は遺産分割の対象になるのか?」という点です。以下では、死亡退職金の受取人が指定されている場合とされていない場合に分けて整理します。
受取人の定めがある場合
会社の退職金規程や労働契約において受取人が指定されている場合、その人は固有の権利として死亡退職金を受け取ることができます。たとえば、「配偶者が第一順位、子が第二順位」などと規程に記載されていれば、その通りに支給されます。
この場合、死亡退職金は受取人の固有財産となるため、遺産分割の対象にはなりません。
したがって、他の相続人と話し合って分ける必要はなく、相続税の課税対象にも原則含まれません(ただし、みなし相続財産として相続税評価の対象にはなります)。
受取人の定めがない場合
一方で、受取人が明確に定められていない場合や、規程自体が存在しない場合には、死亡退職金は、被相続人の権利として発生した財産とみなされる可能性があります。
その場合、死亡退職金は「相続財産」として扱われ、他の財産と同様に遺産分割協議の対象となりますので、相続人全員で協議を行い、分割割合を決めなければなりません。
死亡退職金が特別受益になるのか

死亡退職金は、必ずしも遺産に含まれるわけではありませんが、相続人の一部が多額の死亡退職金を受け取った場合、他の相続人から「不公平だ」と指摘されることがあります。ここで問題となるのが「特別受益」との関係です。
特別受益とは何か?
特別受益とは、被相続人から相続人の一部に対して、遺贈や婚姻・養子縁組のための贈与など特別な利益が与えられた場合に、相続分の計算で考慮されるものです。これは「相続人間の公平」を保つための制度です。
民法903条では、特別受益を受けた相続人は、相続分を計算する際にその分を持ち戻して計算しなければならないと定められています。たとえば、被相続人から一人の子に高額な住宅購入資金が贈与されていた場合、他の相続人と公平に分けるため、遺産分割において考慮されます。
この仕組みによって、特定の相続人だけが過大な利益を得ることを防ぎ、全員のバランスを取ることができます。
死亡退職金が特別受益と認められるケース
死亡退職金が特別受益とされるのは、以下のような場合です。
- 受取人が特定の相続人に限定され、かつ支給額が非常に大きい場合
- 相続財産がほとんどなく死亡退職金が唯一の財産といえるような場合
- 生活保障よりも財産分与の性質が強いと判断される場合
- 裁判所が「実質的に被相続人からの贈与に近い」と認める場合
たとえば、子が複数いるのに配偶者一人だけが数千万円の死亡退職金を受け取った場合、他の子から「特別受益にあたる」と主張される可能性があります。
死亡退職金が特別受益とならないケース
死亡退職金は、遺族の生活保障のために支給されるものであり、受取人固有の財産として扱われることから基本的には、死亡退職金は特別受益とはなりません。
したがって、相続分の不公平を調整するために特別受益と主張しても、認められるケースは限定的です。実際には「遺族固有の財産」と整理されることが多い点に注意が必要です。
死亡退職金の遺産分割でよくあるトラブル

死亡退職金をめぐって相続トラブルが生じるケースも少なくありません。以下では実際に生じやすい典型的なトラブルを紹介します。
死亡退職金は「遺産」ではないと主張される
死亡退職金は、本来「遺族固有の権利」と位置づけられることが多いため、ある相続人が「これは相続財産に含まれない」と主張するケースがあります。
このようなケースでは、他の相続人が納得できず、「公平に分けるべきではないか」と反発し、遺産分割協議がこじれることも少なくありません。特に、金額が大きい場合には不公平感が増し、裁判に発展することもあります。
受取人の指定有無や裁判例の解釈によって扱いが変わるため、専門的な知識がないと判断は困難です。
特定の相続人が多額の死亡退職金を受け取った
受取人が配偶者など一人に限定されており、かつ支給額が数千万円規模に及ぶ場合、他の相続人は「自分の取り分が不当に少ない」と感じる傾向があります。
このようなケースでは、相続財産には含まれないとされても、実質的には被相続人からの贈与に近いと主張され、「特別受益」にあたるのではないかという争いに発展します。生活保障の趣旨が強いとして裁判所が特別受益性を否定することも多いですが、当事者間での感情的対立は避けられず、紛争が長期化する典型的なパターンです。
死亡退職金の受取人が指定されていない、または亡くなっている
会社の退職金規程に受取人の指定がなく、明確に誰が受け取るのか定められていない場合、死亡退職金は「被相続人の財産」とみなされる可能性があります。また、受取人が規程上定められていても、その人物がすでに亡くなっている場合も同様です。
この場合、死亡退職金は遺産分割協議の対象となり、すべての相続人で分割方法を話し合わなければなりません。規程が不明確な会社も多く、相続人間での争点になりやすいため、専門家の助言が必要です。
死亡退職金を遺産として扱う合意が覆る
相続人同士で「死亡退職金も遺産として分け合おう」と一旦合意したにもかかわらず、後になって受取人が「やはり固有の権利なので分ける必要はない」と態度を変えるケースもあります。
このような翻意は他の相続人の信頼を失わせ、協議が振り出しに戻ってしまいます。場合によっては調停や裁判に発展し、精神的にも時間的にも大きな負担となります。
法的には合意の有効性や撤回の可否が争点となるため、早期に弁護士へ相談して対応することが重要です。
まずは法律の専門家である弁護士へ

死亡退職金は、受取人が指定されていれば固有の権利となり遺産分割の対象外ですが、指定がなければ相続財産として扱われる可能性があります。
また、多額の死亡退職金が一部の相続人に支給された場合には特別受益の問題も絡み、判断が分かれるケースも少なくありません。
実際の相続実務では「生活保障」と「公平な分割」のバランスが問われ、家族間の感情的対立に発展しやすいのが現実です。
このようなトラブルを防ぎ、公平かつ適切に解決するためには、相続に精通した専門家の助言が不可欠です。
弁護士法人山本総合法律事務所では、死亡退職金をめぐる相続問題の解決実績が豊富にあり、受取人の権利性や特別受益性の有無などについて裁判例や実務に即したアドバイスを行っています。
「死亡退職金を遺産に含めるべきか」「他の相続人と公平に分けたい」といった疑問や不安をお持ちの方は、まずは弁護士法人山本総合法律事務所にご相談ください。
早期に専門家に相談することが、家族間の紛争を防ぎ、円満な解決につながります。
