遺産相続に関連する民法改正について~改正相続法について弁護士が解説~    

更新日:2023/01/20
法改正

2023年4月から改正相続法が施行されて相続に関するルールが一部、変更されます。

改正法の施行後は、早めに遺産分割をしなければ不利益を受けてしまう可能性もあります。

どのような改正が行われるのか、相続法の改正内容を押さえておきましょう。

この記事では2023年4月から施行される改正相続法(民法)について、弁護士が解説します。これから相続を迎える予定の方やすでに相続人となった方はぜひ参考にしてください。

相続関係で改正される法律

2023年以降に相続関係で改正される法律は、主に民法と不動産登記法です。

2022年12月21日、法務省HPに「あなたと家族をつなぐ相続登記~相続登記・遺産分割を進めましょう~」という記事が掲載されました。不動産登記法による相続登記の義務化とともに、遺産分割の早期解決を催促する旨の法改正が民法にて行われる、といった内容です。

あなたと家族をつなぐ相続登記 ~相続登記・遺産分割を進めましょう~

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00435.html(法務省)

改正民法の施行後は、早めに遺産分割をしないと不利益を受ける可能性があります。また共有制度についての見直しも行われ、土地や建物に特化した財産管理制度も創設されます。

以下でどういった改正が行われるのか、具体的にみてみましょう。

民法の改正内容

1.土地・建物に特化した財産管理制度の創設

不動産のイメージ

改正民法では、土地や建物に特化した財産管理制度が創設されます。この改正内容は2023年(令和5年)4月1日に施行されます。

財産管理制度とは、所有者が不明な不動産や管理不全状態の不動産について、所有者に代わる管理者を選任して管理させるための制度です。

これまで土地や建物のみに特化した財産管理制度はありませんでしたが、改正法では土地や建物のみに特化した財産管理制度が作られます。

このような制度が作られる理由は、全国に放置される不動産が増えて問題になったためです。

適切に管理処分させて放置される不動産を減らすため、専門の管理者制度がもうけられました。

【関連リンク】不動産相続でトラブルになる7つのパターンと解決方法

2種類の財産管理制度

土地・建物に特化した財産管理制度には以下の2種類があります。

  • 所有者が不明な場合の財産管理制度
  • 管理不全状態な場合の財産管理制度

それぞれについてみてみましょう。

1つ目)所有者が不明な土地・建物の管理制度

土地

所有者が不明な土地・建物の管理制度は、所有者がわからない土地・建物や、所有者が判明していてもどこにいるかわからない土地・建物について、管理する人を選任するための制度です。

利害関係人が家庭裁判所へ財産管理人の選任を申し立てると、所有者不明土地・建物の管理人が選任されます。

管理人としては主に弁護士や司法書士などの専門家が選任される予定となっています。

所有者不明な土地建物の管理制度を利用する要件

所有者不明な土地建物の管理制度を利用するには以下の要件を満たさねばなりません。

  • 調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない
  • 土地建物の現状の管理状況などからして、管理人による管理の必要性がある

たとえば不動産の全部事項証明書(登記簿)や住民票、戸籍などの調査、法人登記簿上の主たる事務所や代表者の法人登記簿上の住所、住民票などの調査を行っても所有者が不明な場合などには、「調査を尽くした」といいやすいでしょう。

土地建物の管理人の選任申立ができる利害関係人とは、たとえば、共有地における共有者や公共事業を実施するものなど、該当する不動産の利用や取得を希望する人などです。

土地・建物の管理人ができること

  • 土地や建物の保存や利用、改良行為
  • 裁判所の許可を得て、土地や建物の売却、建物の取壊しなど

売却した場合、得られた売却金については供託し、その旨を公告して所有者などへ知らせる措置をとる必要があります。

2つ目)管理不全状態にある土地・建物の管理制度

空き家

2つ目は管理不全状態にある土地・建物の管理制度です。

これは、所有者による管理がきちんとできていないために他人の権利や利益が侵害されたり、あるいは侵害されるおそれがあったりする場合に土地や建物を管理する人を選任するための制度です。

利害関係人が地方裁判所へ申し立てると、裁判所が財産管理人を選任します。管理人に選任されるのは、やはり弁護士や司法書士などの専門家となる予定です。

管理不全状態にある土地・建物の管理制度を利用する要件

管理不能状態にある土地・建物の管理制度を利用するための要件は、以下の3つです。

  • 所有者による土地や建物の管理が不適切な状態
  • 他人の権利や法的利益が侵害されている、あるいはそのおそれがある状態
  • 土地・建物の管理状況などに照らして、管理人による管理の必要がある

こちらの制度の場合、所有者が判明していても「管理方法が不適切」であれば財産管理人を選任できます。所有者不明や連絡をとれないといった要件は不要です。

管理不全状態の土地・建物の例

管理不全状態にある土地・建物になるのは、以下のようなものです。

  • 建物に壁にひび割れや破損が生じているのに所有者が放置していて、隣地の方向へ倒壊するおそれがある
  • 土地にゴミが不法投棄されているのに所有者が放置しており、害虫や害獣発生による被害が発生している、あるいは発生するおそれがある

利害関係人として財産管理人の申立ができるのは、隣地所有者や被害を受けている近隣住民などが主となります。

管理人ができること

管理不全状態の土地建物の管理人ができるのは、土地・建物の保存・利用や改良行為です。

裁判所の許可を得ればそれらを超える行為ができる可能性もありますが、所有者が明らかになっているので建物の取壊しや売却まではできません。こういった行為をするには所有者の同意が必要になります。

従来の不在者財産管理人制度との違い

電卓

これまでの法律では、所在不明な人の財産を管理する方法として「不在者財産管理人」という制度がありました。

不在者財産管理人制度と新しい土地建物の管理制度は何が違うのでしょうか?

不在財産管理人制度が利用できないケースの増加

不在者財産管理人の場合、土地建物に限らず不在者の財産全般を管理する権限を持ちます。

たとえば不在者の代わりに遺産分割協議に参加してまとめることなどができました。

ただそれだけでは放置される土地や建物などの財産が適切に管理されるとは限りません。そもそも所有者すら不明な場合、不在者財産管理制度は機能しません。一方、所有者が判明して連絡をとれても管理方法が不適切な場合、やはりこの制度は使えません。

所在不明、不適切管理でも利用できる新制度

そこで今回、所在不明や不適切管理の場合に利用できる、土地や建物に特化した管理人の制度が作られたのです。

新しい「土地・建物に特化した財産管理制度」により、今後は所有者不明や管理不全などの理由で放置される土地や建物が減り、不動産が放置される現状が改善されることが期待されています。

土地・建物に特化した財産管理制度の開始時期   

土地・建物に特化した財産管理制度は、2023年(令和5年)4月1日に施行されます。

2.共有制度の見直し

分割のイメージ

同じく2023年4月1日に施行される改正民法により、共有に関する制度も見直されます。

これまで「遺産共有」と「通常共有」が併存している場合には遺産分割協議などによって遺産共有状態を解消してから、共有物分割請求を行って共有物を改めて分割する必要がありました。

遺産共有と通常共有とは

『遺産共有』
相続が発生してから遺産分割が行われるまでの間の財産共有状態です。たとえば不動産を相続すると、遺産分割が終了するまでの間、不動産は相続人全員の共有状態になります。

『通常共有』
遺産共有以外の原則的な共有状態です。たとえばAさんとBさんが土地を共同購入して共有名義にした場合や、遺産分割後に共有状態にした場合などが該当します。

遺産共有と通常共有は、併存する場合があります。たとえばXさんとYさんが土地を共有していてXさんが死亡したとしましょう。Xさんの3人の子ども(AさんとBさんとCさん)がXさんの共有持分を相続したとします。すると土地はAさん、Bさん、Cさん、Yさんの4人の共有状態となります。このとき、AさんとBさん、Cさんの共有部分については、遺産共有と通常共有が併存する状態となるのです。

従来の法律の場合には2度手間になっていた

従来の法律の場合、遺産共有部分についてはまずは遺産分割によって解消しないと、通常共有の共有物分割請求ができないとされていました。

すると、当事者は遺産分割協議などを行ってからあらためて共有物分割請求をしなければならず、二度手間になってしまいます。

そこで改正法では、相続開始から10年が経過した場合、相続人らによる異議がなければ共有物分割訴訟によって1回で遺産共有状態を解消できるとしたのです。

これにより、不動産の共有者はわざわざ遺産分割と共有物分割請求の両方をやらなくても、1度の共有物分割訴訟によって共有状態を解消できるようになりました。

注意点

この制度にもとづいて共有物分割請求を行う場合、特別受益や寄与分などは考慮されず法定相続分が基準になります。

また相続人が異議を申し立てた場合には、この制度は適用できません。異議が出た場合、従来とおり、遺産共有については遺産分割、通常共有状態の解消については共有物分割請求をしなければならないのです。

また相続人が異議を申し出るには、相続人が共有物分割請求訴訟の訴状を受け取ってから2か月間以内に異議申し立ての手続きを行う必要があります。

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3.長期間経過後の遺産分割のルール変更

カレンダー

2023年4月1日から、長期間が経過した後の遺産分割についてのルールも変更されます。

新ルールのもとでは、相続開始後10年が経過すると、「具体的相続分」による遺産相続ができなくなって「法定相続分」で相続しなければなりません。

具体的相続分とは、特別受益や寄与分を考慮した相続割合です。

特別受益と寄与分について

『特別受益』
生前贈与や遺贈などによって特定の相続人が得た利益をいいます。特別受益を受けた相続人がいる場合、特別受益の持戻計算を行ってその相続人の取得割合を減らせます。

『寄与分』
介護や事業の手伝いなどによって特定の相続人が遺産の維持や増加に特別に貢献したときに認められる、多めの遺産取得割合です。寄与分のある相続人がいる場合、その相続人の遺産取得割合は法定相続分よりも増やせます。

ただ相続開始後、長期間が経過してから遺産分割協議が行われる場合にまで具体的相続分を適用すると、証拠もないのに当事者が争いを繰り広げ、無駄に紛争が長引いてしまうケースが多数ありました。

そこで改正法では相続開始後10年が経過した場合、基本的には法定相続分に応じて遺産分割することとし、具体的相続分は適用しないことにしたのです。

10年経過後も具体的相続分が適用されるケース

ただし以下のような場合には、相続開始後10年が経過していても具体的相続分によって遺産分割ができます。

  • 相続開始後10年が経過する前に、相続人が家庭裁判所へ遺産分割請求をしたとき
  • 相続開始後10年の期間満了前6か月以内に遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
  • 相続人が全員、具体的相続分による遺産分割に合意した場合

改正法の施行日前に相続が開始した場合の遺産分割の取扱い

遺産分割に関する時間的限界の新ルールが導入されるのは、改正民法が施行される2023年4月1日からです。改正法の施行日前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルールが適用されます。

ただし経過措置によって少なくとも施行時から5年間は猶予期間がもうけられます。そこで以下のような場合、相続開始時から10年を経過していても、具体的相続分により遺産分割できます。

  • 相続開始時から10年経過時または改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
  • 相続開始時からの10年の期間(相続開始時からの10年の期間の満了後に改正法施行時からの5年の期間が満了する場合には、改正法施行時からの5年の期間)満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合に、当該事由が消滅したときから6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき。

3.法改正を受けての相続への影響

改正法は2023年4月1日に施行されるので、上記の民法改正内容はすべて2023年4月以降に適用されます。

改正法が施行された後は、土地や建物を放置していると、財産管理人が選任されて適切な方法で管理されることになる可能性が発生します。そのようなことにならないためには、自分で適切に不動産を管理するか、管理できないなら売却すべきといえるでしょう。

また改正法施行後は、相続開始後10年が経過したら、特別受益や寄与分の考慮ができなくなって、法定相続分に応じて遺産分割しなければなりません。特別受益や寄与分を考慮して遺産分割したい場合には、早めに遺産分割協議を行う必要があります。

今回の相続法改正により、放置される土地や建物の問題が解消され、スピーディに遺産分割が行われやすくなると期待されています。

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4.遺産相続は山本総合法律事務所にご相談ください

弁護士一同

遺産相続を行う際には、法律を正しく知っておく必要があります。特に今回のように大きな法改正がある場合、経過措置も含めてどのような取り扱いが行われるのか押さえておかないと、不利益を受けてしまう可能性が高まります。安全に財産管理や遺産分割を進めるため、弁護士に相談して法律に従った方法で手続きを進めましょう。

群馬の山本総合法律事務所では、遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。事務所には6名の弁護士が在籍しており、複数のチームを組んで対応しています。

当事務所が目指すのは「もめない相続」であり、弁護士がご相談者さまに寄り添い親身になって対応します。相続人さまが円満に、笑顔を失わないよう配慮しながら遺産分割や相続手続きの支援業務を行っています。

遺産相続に関する改正法の新ルールが気になる方、相続人の立場になって戸惑っている方などいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

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